行政書士試験を少ない問題演習で合格する方法

ノウハウ

よく、受験勉強や資格試験ひいては行政書士試験においても、同じ問題集を2回3回と何度も回すことが重要であるといわれます。しかし私は、行政書士試験の勉強において1つの問題集を最後までやり切ったことがありません。ですが、行政書士試験に合格することが出来ました。

そこで、問題演習の量が少なくとも試験に合格できる方法を話したいと思います。

一問に時間をかける

問題演習の量が少なくとも試験に合格できる方法は一問に時間をかけるということです。

問題演習は多くの問題をこなすに越したことはないのですが、ただこなせばいいというものではありません。1つ問題を多角的に捉え、時間をかけて取り組む必要があります。

時間をかけて多角的に捉えるとはどういうことかというと、①その問題を解答に導く思考ルーティンを確認する。②関連事項のリンクを作成する。の2点を行う作業となります。

その作業はどのようなものか、以下に見ていきましょう。

解答に導く思考ルーティンの確認

まず、以下の択一式の問題を例に解答に導く思考ルーティンを確認していきましょう。

例題:法定地上権の成立に関する以下の記述で誤っているものを選びなさい。

1.土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について法定地上権が成立する。

2.更地に抵当権設定後に建物を建てた場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

3.借地上に建物があり、建物に抵当権が設定された後に、土地と建物が同一の所有者に帰属した場合においては、その建物について法定地上権が成立する。

4.土地がAとBの共有であるが、建物はAの単独所有であった場合において建物に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

5.土地がAの単独所有であるが、建物はAとBの共有であった場合において土地に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立する。

法定地上権の問題です。このような問題の場合はまず、前提たる法定地上権の趣旨から考える思考ルーティンを持つことが重要です。

法定地上権の趣旨は建物収去による社会経済上の不利益を回避する点にあります。それを踏まえて問題に前提となる趣旨と解答に導く思考ルーティン赤字部分)を追記しましたので、確認していきましょう。

例題:法定地上権の成立に関する以下の記述で誤っているものを選びなさい。

前提:法定地上権の趣旨は建物収去による社会経済上の不利益を回避する点にある。つまり建物収去が社会経済上の不利益になるか否かで判断する。

1.土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について法定地上権が成立する。

条文(388条)通りである。抵当権実行により、建物収去が必要となるのは社会経済上の不利益である。よって、法定地上権は成立する。

2.更地に抵当権設定後に建物を建てた場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

抵当権設定者は更地(底地と比べ更地は価値が高い)である土地を評価しているので、建物収去よりも、その期待を裏切ることのほうが社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立しない。

3.借地上に建物があり、建物に抵当権が設定された後に、土地と建物が同一の所有者に帰属した場合においては、その建物について法定地上権が成立する。

この場合は混同の例外として、建物抵当権に土地利用権も追加設定されたこととなり社会経済上の不利益とはならない。よって、法定地上権は成立しない。

4.土地がAとBの共有であるが、建物はAの単独所有であった場合において建物に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

共有者Bからしてみれば法定地上権の成立が負担となってしまう。建物収去よりも、Bの負担の方が社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立しない。

5.土地がAの単独所有であるが、建物はAとBの共有であった場合において土地に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立する。

共有者Bからしてみれば法定地上権の成立が利益となる。そして、建物収去はBの社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立する。

よって、解答は3となります。

もちろん、上記で解説されているようなことは問題集においても解説されている場合もあります。ゆえに、問題集で解説されていない部分を補記する作業に実際はなるでしょう。

関連事項のリンク作成

次に、上記のような思考ルーティンのみならず、関連事項のリンクも追加しましょう。前述の問題に関連事項のリンク(青字部分)を追加すると以下のようになります。

例題:法定地上権の成立に関する以下の記述で誤っているものを選びなさい。

前提:法定地上権の趣旨は建物収去による社会経済上の不利益を回避する点にある。つまり建物収去が社会経済上の不利益になるか否かで判断する。

1.土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について法定地上権が成立する。

条文(388条)通りである。抵当権実行により、建物収去が必要となるのは社会経済上の不利益である、よって、法定地上権は成立する。

抵当権の特徴:目的物の占有を設定者のもとにとどめ、目的物の交換価値を把握して優先弁済を受けられるという特徴を持つ。

2.更地に抵当権設定後に建物を建てた場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

抵当権設定者は更地(底地と比べ更地は価値が高い)である土地を評価しているので、建物収去よりも、その期待を裏切ることのほうが社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立しない。

3.借地上に建物があり、建物に抵当権が設定された後に、土地と建物が同一の所有者に帰属した場合においては、その建物について法定地上権が成立する。

この場合は混同の例外として、建物抵当権に土地利用権も追加設定されたこととなり社会経済上の不利益とはならない。よって、法定地上権は成立しない。

混同(179条)の例外には、第三者のために消滅しない場合と、自分自身の利益のために消滅しない場合がある。

4.土地がAとBの共有であるが、建物はAの単独所有であった場合において建物に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立しない。

共有者Bからしてみれば法定地上権の成立が負担となってしまう。建物収去よりも、Bの負担の方が社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立しない。

共同所有の形→共有(相続財産)、含有(組合財産668条)、総有(入会権・権利能力なき社団の財産)

5.土地がAの単独所有であるが、建物はAとBの共有であった場合において土地に抵当権が設定され実行された場合は、その建物について法定地上権は成立する。

共有者Bからしてみれば法定地上権の成立が利益となる。そして、建物収去はBの社会経済上の不利益となる。よって、法定地上権は成立しない。

よって、解答は3となります。

問題文と解説に出てきた用語である抵当権・混同・共有に関して、追加でリンクを作りました。これにより、法定地上権の部分だけでなく、他の部分の勉強にもなります。

このやり方は、漫画の「ドラゴン桜」に出てきた。メモリーツリーの作成という勉強方法です。

一つ項目から関連事項への広がりのリンク(メモリーツリー)を作ることで勉強効率が高まると「ドラゴン桜」では説明されています。

メモリーツリー

中国の唐王朝を中心とした世界史のメモリーツリー。こうすると前後の王朝、世界とのつながりを把握しやすく勉強効率が高まる。

記述式の場合も同様

上記のような作業は択一式のみならず、記述式においても行います。

別の記事(行政書士試験記述式対策:例題3)にて出した問題を参考として、以下に示します。

例題3:AはBに甲土地を売却し登記をBに移転したが、Bの土地代金未払いがあり契約を解除した。しかしその後、Bはすでに甲土地をCに売却している事実が判明した。Cへの売却は、解除の前後いずれかは不明である。

Cはどのようにすれば土地の所有権を取得できるか。解除前の場合と解除後の場合、いずれの場合について40字程度にて答えよ。

思考ルーティン

解除前:解除は遡及的に無効でありCは545条1項ただし書きにて保護されるのでは→それでは何ら帰責性がないAにとって酷である→CはAの犠牲の下に保護されるのだから権利保護要件として登記の具備が必要である

解除後:取引全体として見れば、解除による復帰的物権変動も取引による物権変動と観念できる→これは二重譲渡類似の関係といえる→よって、AとCの優劣は登記の具備によって決するべきである

関連事項のリンク

時効と登記:時効によって所有権を取得した場合、第三者に対抗するには登記が必要である(二重譲渡類似であり、対抗関係に立つ)。

相続と登記:被相続人からの譲受人は、登記がなくとも相続人に対抗できる(当事者の関係であり、対抗関係に立たない)。

 よって、解答例は以下となります。

このように、記述式においても補記をしていき、1問に時間をかけ、じっくりと検討することが大事です。

皮肉にも・・

以上が、少ない問題演習で試験に合格できる方法となります。

この方法は民法のような範囲の広い科目においては有効です。なぜならば、総則の問題を解きつつも物権・債権・親族相続の分野もリンクを作りながら学ぶことができるためです。問題集をすべて解かなくても横断的に勉強することが可能となります。

ですが、皮肉にもこの方法は、こなした問題は少ないけれども時間はかかるというものとなります(;^ω^)。ひたすら問題をこなすよりも時間をとる場合もあります。私が行政書士試験の問題演習をしていた頃は、1問につき30分から2時間ほどの時間をかけてやっていました。上記のような思考ルーティンの確認とリンクの作成を行っていたからです。

問題集
このように問題集に思考ルーティンと関連事項のリンクを補記していました。

でも、これで実力がつきました。結局、実力をつけるために近道はないのです。

ですから、時間を有効に使うため、1問に時間をかける問題と、ひたすら数をこなしていく問題とで、分けて勉強するといいと思います。具体的に行政書士試験の科目で考えれば、法令科目の問題は一問に時間をかけ、一般知識の問題はひたすら数を解くといった感じで勉強するのがおすすめです。

以上となります。この投稿が皆さんのお役に立てれば嬉しいです。

それでは/