行政書士試験のための法律用語集(た行)

法律用語集

行政書士試験に限らず法律の勉強をしていると、わからない用語が出てきて手が止まってしまうことがあります。そのままスルーして勉強を続けるのもひとつの手ですが、わからないものをずっと放置しておくのは後の理解度に影響を及ぼすこともあります。

なぜならば、法律は数学と同じだからです。つまり、四則演算ができなければ微分積分が理解できないことと同じで、「意思表示」「善意」といった言葉の意味がわからなければ判例や法理論を理解することはできないためです。よって、わからない用語が出てきた場合はその都度調べて、意味を知り、理解をした方がいいです。

そこで、なるべくスムーズに法律用語を理解し、勉強がはかどるようにと法律用語集を作成してみました。参照していただければ幸いです。

今回は、「た行」のページになります。

注:条文を参照したい場合は、こちらをどうぞ→e-Govポータル https://elaws.e-gov.go.jp/

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代執行(だいしっこう)

<行政代執行法>

役所から「やれ!」と言われたことをやらない人がいた場合に、そのやるべきことを役所が代わりにやり、かかった費用はやらなかった人にもたせるという方法。

例えば、長年放置され人が住んでいない家屋がありました。古い家屋は倒壊する危険性が高く、周辺住民に危険が及ぶ可能性があります。

そこで、この危険を避けるため、その地域の役所が所有者に「建物を撤去しろ!」と命令しました。しかし、所有者は一向に言うことを聞かずに放置のままです。

このような場合に、役所が解体業者などに依頼して代わりに建物の撤去を行い、業者に払った撤去費用を所有者へ請求するという方法になります。

行政代執行法2条にて「行政庁により命ぜられた行為について義務者がこれを履行しない場合、~当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収する」ものと規定されています。

代物弁済(だいぶつべんさい)

<民法>

「お金が無いからわりにで支払う(弁済する)よ。」ということ。

例えば、鈴木さんに対して100万円の借金を負っている佐藤さんが、

「100万もお金がないから、代わりに俺が持っている100万相当の自動車(物)で支払うよ。」

という場合になり、鈴木さんがこれに同意すれば弁済としての効果が生じ、佐藤さんの借金は消えます。

諾成契約(だくせいけいやく)

<民法>

り立つ契約

つまりは、お互いが「いいよ( ´∀` )」と同意すればOKで、典型的な契約です。

諾成契約にあたるのは、贈与(民法549条)売買(民法555条)等になります。

他主占有(たしゅせんゆう)

<民法>

【関連用語】自主占有

「これは自分のものではない」とわかった上で占有している状態。

例えば、部屋を借りて住んでいるような場合がこれにあたり、「この部屋は自分の所有物ではないということはわかってはいるけれども、自分は家賃を払って、ここに住んで(占有して)います。」という状態が他主占有です。

単元株式(たんげんかぶしき)

<会社法>

「株主は、ある程度多くの株を持っていないと経営には口をはさめないよ」という株式の制度。

通常であれば、株主は1株でも株式を保有していれば会社経営に口をはさむことができます。つまりは、議決権の行使(会社法105条1項3号)ができます。しかし、単元株式制度においては、一定の数(ある程度多く)の株式を持つ株主だけに議決権を行使させることができます(会社法188条1項)。

例えば、10株で1単元の場合、10株保有の株主は1単元、つまりは、1議決権を行使して経営に口をはさむことができます。逆に、10株未満の9株しか持たない株主は0単元(単元未満)で議決権を行使できず、経営に口をはさめないのです。

単元株式

このような制度が設けられているのは、少数株しか保有していない株主の意見までまとめようとすると、膨大な数の株主への対応となり事務処理が大変なため、それを簡素化する趣旨があります。

しかし、少数の株しか保有していなくても、株主は株主であるので配当を受け取る権利(105条1項1号)などは当然有します。

また、この単元株式制度は株式の流動性(売り買いのしやすさ)が悪くなるというデメリットをもちます。なぜかというと、例えば1株3000円の株式が1単元100株に設定されている場合、

3000円✖100株=30万円

日本の上場株式会社は1単元100株としているところが多数。

という多くの費用がかかるため、買主にとっては買いづらいし、売主にとっては売り手が付きづらいという状態になるからです。

地方公共団体(ちほうこうきょうだんたい)

<憲法・地方自治法>

都道府県・市区町村単位の行政組織。

要は国単位以下の行政組織となり、憲法の定める地方自治の本旨(憲法92条)に基づいて運営されています。

地方公共団体には、都道府県・市町村の普通地方公共団体と、特別区・財産区(普通地方公共団体に属さない公の施設)等の特別地方公共団体があります。

地方裁判所(ちほうさいばんしょ)

<民事訴訟法、刑事訴訟法>

【略称】地裁(ちさい)

各都道府県に設置されている裁判所。裁判所のランクでいえば3番目。

民事訴訟の場合、通常、簡易裁判所から始まり上訴(判決・決定に不服がある場合に上級の裁判所に訴えること)をするたびに、簡易裁判所➪地方裁判所(いきなり高等裁判所の場合もあり)、地方裁判所➪高等裁判所、高等裁判所➪最高裁判所、という感じでランクアップしていきます。

裁判所階級

そして、各地裁の詳しい所在地はこちらになります。裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/courthouse/map/map_list/index.html

地方自治(ちほうじち)

<憲法・地方自治法>

「各地方(各都道府県・市区町村)の好きにしていいよ」ということ(ただし、制約付き)。

憲法第八章(92条~95条)に定められている地方における統治のあり方で、地方自治法により、その具体的あり方が規定されています。「日本は狭いといえども、各地域による文化・風習・実情が異なるから、それぞれの地域に合わせた統治をしたほうが絶対にいいよね( ´∀` )」というのが制度の趣旨。

そして、地方公共団体の議会にて条例を制定することができます(地方自治法14条1項)。ただし、すべて地方の好きにできるわけではなく制約もあります。

それは、法律に背いてはいけないということ。

たとえば、「人の物を盗んでもOK」といった条例を制定することはできません。なぜならば、地方自治法14条1項にて「法令に違反しない限りにおいて」とされているためです。よって、「人の物を盗んでもOK」といった条例は、窃盗罪(刑法235条)という法律に触れるのでNGとなります。まあ、当然だよね(;^ω^)

このように、「法律という大枠に触れない範囲で、地方を自由に統治してね」というのが地方自治となります。

嫡出子(ちゃくしゅつし)

<民法>

結婚している二人の間に生まれた子供。

逆にそうでない子供(愛人との間の子など)は、非嫡出子と呼ばれます。

嫡出否認の訴え(ちゃくしゅつひにんのうったえ)

<民法>

「おれは、おまえ(その子)の父親なんかじゃねー!」と訴えること。

太郎さんと花子さんは夫婦で、仲睦まじく暮らしていました。
ところがある日、花子さんが、太郎さんの親友である大輔さんと浮気していることが発覚!
さらに、花子さんは当時妊娠をしており、ほどなくして子供が産まれました。
産まれた子供の顔を、太郎さんはじっと見て思います。

こいつの顔、大輔に似ている

上記のような状況においても、法律上”子供は太郎さんと花子さんとの間の子供(嫡出子)”ということになります(嫡出の推定:民法772条)。しかしこれでは、太郎さんはやり切れません。

そこで、こんな太郎さんを救うべく定められた民法の規定が嫡出否認の訴え(民法774条)になります。これは、

花子さん(妻)に対して:「おれは、その子の父親なんかじゃねー!

と訴えるか、

子供に対して:「おれは、おまえの父親なんかじゃねー!

と訴えることができる権利です。

嫡出否認の訴え

追認 ・通達

追認(ついにん)

<民法>

「やってしまったのなら、もうそれでいいよ」とすること。要は、人の行為をってめるものになります。

例えば、鈴木さんの不動産を、権利のない佐藤さんが勝手に売却してしまった場合(無権代理行為:民法113条)、鈴木さんのほうから「売っちゃったのなら、もうそれでいいよ」と佐藤さんの無権代理行為を認めてあげることです。

そして、鈴木さんが追認することによって、佐藤さんの勝手な不動産売却は契約の時にさかのぼってその効力を生じます(民法116条)。つまりは、有効な契約となります。

追認

通達(つうたつ)

<行政事件訴訟法>

役人の上司が、役人の部下に出す命令。

さらに詳しく述べると、上級行政機関が下級行政機関に発する命令であり、「あくまでも、行政機関内部のことだから国民の権利義務に関係しないよね( ´∀` )」ということで、法規としての性格を持たない行政規則に分類され、通達の取り消しを求めて取消訴訟を提起することはできません。

でも、下級行政機関は通達に拘束されて行政行為を行うため、巡り巡って国民の権利義務に関係するような場合もあります。その典型的例が昭和33年3月28日判例(裁判所ウェブサイト)で、この判例をざっくりいうと、

行政機関(`Д´)「(通達で)パチンコ台はこれから課税対象になる」

パチンコ台購入者(;´Д`)「えっ、それはないよ。これまで課税されなかったじゃん」

ということで、「これって、国民の権利義務に関係してなくない?」「通達が法規としての性格を持っていない?」(-ω-;)ウーンと争われた裁判ですが、結果、この通達は法律の正しい解釈の範囲内だからセーフとされました。

しかし、通達によってなされた処分が違法(法律の正しい解釈の範囲外)であった場合は、取消訴訟を提起できる余地はあるとされています。

定款 ・抵当権

定款(ていかん)

<会社法>

会社の概要およびルールを示したもの。

「何をする会社?」「社長は誰?」「株式は何株発行するの?」といったことが記載されるもので、会社設立時に作成が義務付けられています(会社法26条1項)。

また、会社を運営していると色々と変化も生じるでしょうから、その都度、定款は変更します。

抵当権(ていとうけん)

<民法>

不動産を人質(物質かな?(;^ω^))にしてお金の貸し借りをすること。

例えば、不動産を持っている鈴木さんが佐藤さんからお金を借りたい場合に「佐藤さん、お金貸してよ。もし、返さない場合は俺の不動産を売って、そのお金をもらっていいからさ。」と言えば、佐藤さんも「まあ、不動産を担保(物質)にするならば貸してもいいか。」となります。

このような契約のことを抵当権設定契約と呼び、鈴木さんのことを抵当権設定者、鈴木さんの不動産(土地、建物、または両方)を抵当不動産、佐藤さんのことを抵当権者といいます。

そして、鈴木さんの返済が滞ることがあれば佐藤さんは抵当不動産を売り(競売)にかけ、買受人が支払う買受金をゲットすることができます。

もし、抵当権設定者の返済が滞れば・・

抵当権説明2

登記(とうき)

<民法、不動産登記法>

国が、物の所有者は誰かということを証明しているもの。

例えば、マイホームの購入を検討している鈴木さんが散歩をしていたところ、自分が建てたいと思っていた理想的な家に出会いました。

鈴木さんがその家の表札を見たところ”田中”という表札がかかっています。

鈴木さんはしばらく考えた後、意を決して、その家のチャイムを鳴します。すると、田中さんが出てきました。そして、鈴木さんは言います。

「すみません。この家を売ってくれませんか。」

すると田中さんは、

「ええ、いいですよ。」

かくして、鈴木さんは田中さんにお金を支払い、家の引き渡しを受けました。そして、その理想的な家への引っ越しの最中に、ある人が訪ねてきました。その人は佐藤さんという方らしいです。

そして、佐藤さんが鈴木さんに言います。

「あなた、何しているの!」

鈴木さんが返答しましす。

「いや、田中さんからこの家を買ったので引っ越しです。」

すると、佐藤さんはこう返します。

「何を言っているんだ、この家の所有者は私だ!田中にはこの家を貸していただけだ!」

鈴木さん・・

ええええええええええーーーーーーーーΣ(゚Д゚)

というように、物の所有者というのは見た目ではわかりません。そして、不動産のような高額なもので、所有者が不明の場合には、このようなトラブルにも発展します。

そこで、登記という制度を設け、国が法務局という役所において”真の所有者”を証明してあげることでトラブルを防ごうとしています。

ちなみに、登記は不動産以外にも、会社(法人)の登記や船舶の登記等があります。また、登記を得ることを「登記を具備する」といいます。

登記簿(とうきぼ)

<民法、不動産登記法>

登記された内容が書かれたデータ。

法務局という役所で保管され、申請することによって閲覧等が可能です。

当事者訴訟(とうじしゃそしょう)

<行政事件訴訟法>

公的機関が絡んだことにより失った権利・利益を確認するための訴訟。

行政事件訴訟法4条にて「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟」と規定されています。

民事訴訟などでは「佐藤さんが貸した金を返さないので返すことを要求する」といった民間人どおしの確認。行政事件訴訟では「公務員がすることによって被害を受けるのでやめてくれ」といった公務員と民間人の間の確認になります。

そして、当事者訴訟は公的機関が絡んだために民間人どおし、または、公務員自身に生じた権利・利益を確認するものとなります。

例えば、「私の土地が収用(強制買取)されてしまうが、買主(民間人)の買取金額に納得がいかない。そして、その金額を決めたのは公的機関なので、その確認を訴える。」(形式的当事者訴訟:行政事件訴訟法4条前段)といった場合や、「公務員として働いていたけど、わけもわからずに懲戒(クビ)にされてしまった。だから、公務員としての身分を確認して復職したい。」(実質的当事者訴訟:行政事件訴訟法4条後段)といったことになります。

このように、当事者訴訟には形式的当事者訴訟実質的当事者訴訟の二種類があります。

当事者訴訟

同時履行の抗弁権(どうじりこうのこうべんけん)

<民法>

【関連用語】留置権

「一緒に交換しないならば、渡さないよ」と言える権利。

例えば、コンビニでお茶を買った場合、お茶の代金とお茶は一緒に交換するのが普通です。これがもし、「とりあえず、お茶を先にわたしてくれよ。金は後で払うからさ。」と客が言った場合どうなるでしょう。もちろん、

コンビニ店員はお茶を渡さないですよね(;^ω^)

このように、相手が債務を一緒(同時)に交換(履行)しない場合において、自分も渡すことを拒否できる権利のことを同時履行の抗弁権といいます。

同時履行の抗弁権

ちなみに、同時履行の抗弁権と留置権の違いについてはこちら

特別区(とくべつく)

<地方自治法>

東京23区のこと。

都道府県市町村とは別枠の独立した行政組織で、地方公共団体のなかでも特別地方公共団体にカテゴリーされ、都に設置されるものになります(地方自治法281条)。

現在、特別区は東京23区のみなので”特別区=東京23区”となりますが、他地方にて特別区が生まれれば、この図式ではなくなります。実際過去に、大阪都構想※による特別区の設置が議論されたこともありました。

※Wikipedia:大阪都構想参照

独立行政法人(どくりつぎょうせいほうじん)

<独立行政法人通則法>

【通称】独法(どっぽう)

「この仕事は社会にとって必要だからやってほしいけど、民間企業は利益が出ないからやってくれないよね。」という仕事を代わりやる組織。

具体例を挙げると、大学入試センター(「大学入学共通テスト」の運営を行う)や国民生活センター(国民生活を安定・向上させる業務を行う)等、といった独立行政法人があり、利益重視である民間企業が積極的に行うとは考えにくいものを代わりにやります。

そして、独立行政法人は独立行政法人通則法2条1項にて、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの。」((;^ω^)長っ)と定義されています。

土地改良事業(とちかいりょうじぎょう)

<土地改良法>

農業の生産性を上げるための農地改良事業。

具体的には、農場の整備や農業用水の確保など、土地およびその周辺環境の改良をしています。詳しくは、農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/nousin/sekkei/kousyueki-zirei.html)を参照。

取消し(とりけし)

<民法>

【関連用語】無効

起きたことを無かったことにして、元に戻すこと。

例えば、未成年者が親の承諾なく勝手に携帯電話を契約し、料金を払った場合において、親が了承していない場合には取消しができます(民法5条2項)。

これは、未成年者の起こした行為(契約)を無かったことにして、元に戻す(お金を返してもらう)ことができるということです。

取消訴訟(とりけしそしょう)

<行政事件訴訟法>

役所の処分裁決を無かったことにするための訴訟。

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟」(行政事件訴訟法3条2項)および「審査請求その他の不服申立に対する行政庁の裁決、決定その他の行為の取消しを求める訴訟」(行政事件訴訟法3条2項)とされています。

具体的には、「税務署から多すぎる納税義務を課されたので、その課税処分の取消を求める」(処分の取消訴訟)とか、「審査請求をしたが審査庁が下した裁決に納得がいかないので、その裁決の取消を求める」(裁決の取消訴訟)といったことになります。

取消訴訟

取締役(とりしまりやく)

<会社法>

会社の経営者。

または、会社法の定義では会社の業務を執行する人(会社法348条1項)となります。

そしてこの”業務”とは、「パソコンで事務処理をする」とか「会社の商品を運搬する」といった仕事ではなく、「会社の経営戦略をたてる」とか「会社組織の編成をする」といった仕事になります。

これらの仕事は会社に雇われている労働者の仕事。

つまりは、株主に委任され会社経営を行う人が取締役になります。

株主と取締役と労働者

取締役会(とりしまりやくかい)

<会社法>

取締役たちの集まり。

取締役たちが集まって、会社を上手く経営する。これが取締役会の目的です。

何事も一人の人間の考えだけでは上手くいかないことも多いですが、複数の人間がアイデアを出しあえば上手くいきやすいです。そこで、経営陣は多くいるほうがいいということになり、公開会社等の大きな会社では取締役会は設置が義務づけられています(会社法327条1項)。

取締役会設置会社(とりしまりやくかいせっちがいしゃ)

<会社法>

取締役会を作らなければいけない会社。

具体的には、公開会社・監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社といった、組織の大きな会社が対象となり(会社法327条1項)、取締役の人数は3人以上とされています(会社法331条5項)。