行政書士試験の勉強を進めていると、似ているけど少し意味が違う法律用語に出くわします。例えば、「棄却判決と却下判決」というように、どちらも請求を退ける判決ではあるものの、その内容が微妙に違うものです(両者の違いは後述します)。
そこで、このように微妙に違いのある法律用語に関して、いくつか例を挙げ、その違いを明確に説明していきます。後に、試験本番の点数にも影響することですので、参照してみてください。
「棄却判決」と「却下判決」の違い
棄却判決は裁判で議論(審理)を尽くした後に出される終了時の判決。一方、却下判決は議論をそもそもしてもらえない判決、または、議論が途中で打ち切られた際に出される判決となります。
言い換えると、「棄却判決は結論付けたもの」「却下判決は打ち切ったもの」ということになります。
そして、よく勘違いされやすいのですが、却下判決が「議論をそもそもしてもらえない」という点がクローズアップされ、そこから門前払い判決とよく呼ばれます。ゆえに、審理すらさせてもらえずに、最初から締め出される判決と思われがちです。
実際はそうではなく、却下判決においても審理が行われている場合もあります。つまりは、議論が十分に尽くされないまま出さる判決はすべて却下判決となります。
「同時履行の抗弁権」と「留置権」の違い
同時履行の抗弁権と留置権は、ともに相手が給付をしない場合に、反対給付を拒否できる権利になります。同じ意味です。
ではなぜ、この二つは分けて使われるのでしょうか。
それは、「同時履行の抗弁権は債権的権利に対するもの」「留置権は物権的権利に対するもの」という違いがあります。
どういうことなのか?具体例を見てみましょう。
まず同時履行の抗弁権は、売買契約(民法555条)のような双務契約において、「商品を売ったのだから金払え、でないと商品は渡さない」と言える権利で、契約という債権的権利から発生しているものとなります。
一方で留置権は、家を売ったが売買代金が支払われない。そこで売主が、「家は明け渡さない」と言える権利で、所有権という物権的権利から発生しているものです。
このように、反対給付を拒否できる根拠が「債権的権利から来るものなのか」「物権的権利から来るものなのか」ということが両者の違いとなります。
「みなす」と「推定する」の違い
例えば、民法886条1項において「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」としています。
これは、”既に生まれたものとみなす”、つまりは「胎児にも相続権があるということで決めましょう」という条文です。
一方で推定するですが、民法762条2項において「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。」としています。
これは、”共有に属すると推定する”として「いったん、2人の共同所有ということにしておきましょう」という条文です。
上記例から、「みなすは決めてしまっている」が、「推定するは一時的(暫定的)なもの」ということがわかります。これが、みなすと推定するの違いです。
違いを理解することの重要さ
上記例以外にも似て非なる法律用語は多くあります。そして、似ている法律用語の違いを問う問題は、過去に出題され、かつ、それが合否を分ける場合すらあります。
例えば、平成25年問44では「訴えの利益が消滅した場合に下される判決は却下判決か棄却判決か?」ということを問われる記述式の問題が出されました。これは、得点配分の多い記述式の問題ですから、当時この選択を誤って合格点に達さない人が多く出ました(ちなみに正解は却下判決)。
また、平成元29年問35では「みなすの正しい意味と使い方」を問うような設問が出されました。これも、択一式の1問4点ですから大きいです。
このように、法律用語の意味を正確に理解することは合否を分けます。
なので、普段の勉強において「なんとなく似ている意味だな」と漫然と曖昧に勉強するのではなく、どこかのタイミングでその違いを明確にするようにしましょう。
さらに、そのタイミングは終盤がいいでしょう。
これまで、数をこなして勉強してきたことの精度を高めるのです。それが、合格への最後のハードルを越えることにつながることでしょう。
以上